人は思考を省略するーコーチングでは行動をActionではなくOptionsと呼ぶ理由-
ウェルビーイングコーチのありさんです。はやいもので今年も2月に入りました。2月は、新年に決めた目標に向かって順調に行動が進んいるかどうか、一度振り返って仕切り直しをするといい時期でもあります。自分が決めた目標に進む状態は、自分を信頼し努力を続ける過程、つまり、とてもウェルビーイングな状態です。今日は、目標に近づく行動を、うまく設定していくための方法とコーチの踏ん張りどころについてのお話しです。
1 一般的なコーチングのモデル
一般的なコーチングでは、グローモデルという一つの型が知られています。これは、
G Goal ゴール・目標設定
R Reality 現状確認
O Options 行動
W Will 意思決定
それぞれの頭文字をとったもので、この4つの点をひとつひとつ確認していくコーチングの流れのようなものですね。
2 なぜActionじゃなくてOptionsなの?
ところで、「行動」といえば浮かんでくる単語は、Options以外にもありませんか。
例えば「Action」 などがわかりやすいところです。むしろ、Optionsが最初に浮かぶほうが珍しいのではないでしょうか。
でも、コーチングのモデルでは行動をActionとはせず「Options」としています。ちょっと違和感があるかもしれませんが、実は、これが、コーチングでクライアントの達成を支援するための重要なミソなのです。
3 Options の意味
Optionsの意味は、ずばり「選択肢」です。
つまり、目標達成に向かってことを進めるならば、いきなり行動を決めにかかるのではなく、その前に、「選択肢」をどんどん出してみよう!という価値観が込められているのです。
したがって、「達成手段としてなにがしかの可能性のあるもの」はすべて出しきることが大事です。現実味とか実行可能性などは、この時点ではあまり考える必要はありません。
むしろ、そんな制限を取っ払って、とにかく何でもいいから出してみる。あくまで「選択肢」だからです。
そこで、コーチの必須質問例としては,
「どんな行動が考えられますか?」
「ほかにはどんなものがありますか?」
「何も制限がないとしたら何をしますか?」
「いままでやったことのないことも出してみませんか?」
など。とにかく、1,2個出てきた時点で満足せず、コーチが粘り強く問うことが重要です。
4 人は思考を省略する
コーチが選択肢を粘り強く引き出していくことがなぜそんなに重要なのか。それは、人の脳の仕組みに関係します。つまり
「人は思考を省略する」ということです。
人の脳は膨大なデータ処理を同時進行で行っています。したがって、できるだけ処理に負担がかからないように、省略できるところは思いっきりショートカットしようとします。
そうしないと、ひとつひとつを毎度毎度吟味していたら、その選択の多さに爆発してしまうからです。
例えば、朝起きてまず何をするか、歯磨きと洗顔をどちらにするか、
パンにするか、パンなら何を添えるのか、
どの靴を履いて、どの服を着るのか。
これらをすべてを本当にゼロから、あらゆる可能性を出して選択していたら、一日が足りないどころか、家を出るまでに何時間もかかるかもしれません。
こうした負担を避けるために、人は思考や選択を相当程度省略して、つまり、昨日と同じルーティンを繰り返して生きているわけです。
日常の多くの出来事は、このルーティン思考省略が適しており、それによって私たちは効率よく、ある意味、無難に生活をこなすことが可能となっているのです。
5 コーチングでは思考の省略ルーティンを脱却する
一方で、コーチングで扱う目標達成は、これまでのルーティンの繰り返しでは達成できないような事柄を扱います。
ということは、普段のルーティン思考や、省略パターンを適用していては、いつまでも課題達成に到達しません。
逆に、これまでの選択では出てこなかったことに向き合い、
ルーティン思考から脱却しなくてはいけません。
だからこそ、コーチとしては、クライアント一人なら普段同様に省略してしまうようなところを、あえてグイグイと引き出していくことに価値があるのです。
その中で、
・今までやってこなかった新しい方法や発想が生まれたり
・知らず知らずに蓋をしていた自分の可能性に気が付いたり
・過去にやっていたけれども最近忘れてしまっていた大切な行動に気が付いたり
といった新しい発見や思わぬイノベーションが起きるのです。
これは行動選択の場面におけるコーチの(もっとも)重要な役割ですから、決して飛ばしては(コーチが省略しては)いけないのであります。
6 他には?は魔法の質問
そして、人と言うのは不思議なもので、一度答えを出したつもりでも、「他には?」と聞かれると、次を探し出します。
これはやってみるとわかりますが、「他には?」と聞かれて、頭をひねらない人はほとんどおらず、かつ、大抵の人が何か新しい答えを口にします。
人は、問われることで思考し、問われることで、答えを自ら口にする生き物なのですね。
私自身、たくさんのクライアントさんとこうしたやり取りを重ね、また自分自身もクライアントとして問いを立ててもらっています。
そのたびに、人とは、どんな難題に対しても、自ら考える力、自分で解決する力を持っているのだということにいつも感動させられます。やはり人の可能性は無限大、決してそこを見くびってはいけないのです。見くびってしまうと、ウェルビーイングから遠のいてしまいます。
7 選択肢が十分に出たら初めて行動を決定する
そして、豊富な選択肢が出てきた後に、
「その中でどれか選ぶならどれにしますか?」と
クライアントが選ぶ段階にようやく進むわけです。ここまでの丁寧な過程が
GROWモデルの「Options」なのです。
8 選択肢が生まれる過程で得られる副産物
なお、こうやって選択肢をどんどん出す過程で,クライアントの中には自然と気づきが生まれます。
例えば
「あれ、こういうこともあったんだな」
「そういえば、これはできないと思い込んでいたな・・・」
「おお、なんで、これをやらなかったんだろう?!」
なんていう気づきです。選択肢を出すだけでなく、こうした気づきが表れてきたら、その気付き自体が大きな成果ですよね。
他にも、こんな素敵な成果もあります。例えば、
・クライアントの思考が柔軟になっている
・クライアントの不安感が減じ、やる気が高まっている
・クライアントがたくさんある選択肢の中から「自ら選んだ」という実感が得られる
などなど。いずれも、選択肢を出す過程で生まれた副産物ともいえるものであり、副産物といいつつ、コーチングにおいて、クライアントさんが課題を達成するために、きわめて重要な要素です。
9 クライアントの可能性を信じてOptionsを問いましょう
こうやって、行動の選択肢Optionsを丁寧に探究する中で、クライアントの中にあった
大切なものがどんどん引き出され、その中で自ら選んだ行動を、自らクライアントが実行していくという、コーチングの望ましい流れが生まれます。
ここでもコーチにとって一番大事なのは、コーチがクライアントの可能性を信じること
つまり、クライアントには自分で選択肢を出す力を持っているということを疑いなく信じ
それを問いとして、しっかりとクライアントに渡していくということです。
なお、ラッセルコーチングカレッジでは、GROWモデルをさらに充実させた
GRROOWWモデルを基礎として、自然と効果的なコーチングができるように学びを組み立てています。
興味がある方はぜひこちらをご覧ください。
今年も、みなさまのウェルビーイングのための目標がどんどん達成に近づきますように、心豊かな時間で満たされることを、心から祈っています。